温泉好きの皆さんはレジオネラという言葉を聞いたことがありますか?
先日、私が勤めているクリニックの患者さんの既往歴にレジオネラ肺炎という記載がありました。
恥ずかしながら、医療従事者の私もレジオネラという言葉にピンとこなくて慌てて調べました。
簡単に説明すると
「清潔に保っていないお風呂に入ると、レジオネラ属菌という菌によって肺炎などの感染症を起こすリスクがある」
ということです。
どんなお風呂がリスクが高いのか、レジオネラ肺炎はどんな病気なのかなど掘り下げていきます。
レジオネラ属菌とは?
レジオネラ属菌はあなたの近くに普通に存在する菌です
レジオネラ属菌とは、本来土の中や河川や湖水など自然環境の中に存在する細菌です。
しかし、温泉などの冷却装置や循環ろ過装置、ジャグジーやジェットバスなどの渦流・気泡発生装置など人工環境にアメーバを宿主として増殖します。
レジオネラ属菌は約60種類あり、その中でもレジオネラ肺炎を引き起こすのはレジオネラ・ニューモフィラという菌です。
レジオネラ症とは?
レジオネラ症とは、レジオネラ属菌による細菌感染症です。
基本的にはレジオネラ肺炎と、ポンティアック熱の病型があります。
ポンティアック熱は
潜伏期間が1~2日のち発症し、症状としては発熱で頭痛や筋肉痛、呼吸器症状はみられますが、肺炎にはならず自然に改善していきます。
問題なのは、レジオネラ肺炎です。
レジオネラ肺炎は重症化しやすく、最悪の場合腎不全や多臓器不全を起こして、死亡する場合もあります。
レジオネラ肺炎の症状
レジオネラ肺炎の潜伏期間は2~10日(平均4~5日)で、発症後は急激は経過をとる肺炎です。
症状は全身倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などから始まり、その後38℃以上の高熱、寒気、胸痛、呼吸困難がみられるようになります。
症状は日を追って重くなってきて腹痛、水溶性下痢、意識障害、歩行障害を伴う場合もあり、死亡例は発病から7日以内が多いです。
適切な治療が行われないと致死率は60~ 70%にもなる怖い感染症です。
レジオネラ肺炎は健康な方でも感染しますが、
高齢者や新生児、また、大酒家、喫煙者、透析患者、移植患者や免疫機能が低下している人は感染のリスクが高いです。
どんなお風呂にレジオネラの危険があるの?
名前の由来はある事件
レジオネラという名前は1976年7月のアメリカで起きたある事件がきっかけで命名されました。
それは、アメリカのペンシルベニア州フィラデルフィアのホテルで開催された在郷軍人会(The Legion)で、
参加者やホテル宿泊者221人が原因不明の肺炎で次々に倒れ、そのうち29人が死亡するというなんとも悲惨な事件です。
原因調査の結果、この肺炎はこれまで報告のなかった未知の細菌による集団肺炎であることが確認され、
在郷軍人会(The Legion)にちなんでレキオネラ(Legionella)、
肺を好むという意味からニューモフィラ(pneumophila)、合わせてレジオネラ・ニューモフィラと命名されました。
1996年に世間に広く知れ渡るようになった
日本で世間に広く知れ渡るようになったのは、1996年とかなり最近のことです。
1996年12月に家庭用の24時間風呂にこの菌が繁殖することがわかり、旧通産省が業界に改善を求めたことがきっかけです。
その後も感染患者数は増え続けています。
特に温泉への入浴や旅行が増える7月、9月に多く、国内以外にも海外旅行中に感染したレジオネラ症の報告が増加してきています。
レジオネラ属菌の感染経路
主な感染経路は、レジオネラ属菌に汚染されたエアロゾルを吸入することにより起こる気道感染症です。
主な感染源としては冷却塔水、加湿器や循環式浴槽などです。
他にも、直接触れたことによる皮膚膿瘍や誤嚥による感染もあります。
しかし、ヒトからヒトへの感染はありません。
-エアロゾルとは-
気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子をエアロゾル(aerosol)といいます。エアロゾルは,その生成過程の違いから粉じん(dust)とかフューム(fume),ミスト(mist),ばいじん (smokedust) などと呼ばれ,また気象学的には,視程や色の違いなどから,霧(fog),もや(mist),煙霧 (haze),スモッグ(smog)などと呼ばれることもあります。
引用元:日本エアロゾル学会
実はお風呂だけじゃない‼
レジオネラの感染は温泉施設だけではありません。
主なものは温泉施設、ホテルの入浴浴槽、スポーツクラブの入浴設備、公衆浴場と入浴設備ですが、
他にも給湯器や加湿器、自動車洗浄設備からの感染も報告されています
出典:国立感染症研究所「最近のレジオネラ症の発生動向と検査方法」
安全なお風呂かの見極めポイントは?
レジオネラによる感染は右肩上がりに増え続けています。
そんなレジオネラからカラダを守り、温泉を楽しむためにできるチェックポイントをいくつかご紹介します。
感染リスクの高い危険な場所を知る①循環ろ過装置+気泡発生装置
豊富な湯量がある温泉地ではかけ流しの場合が多く、常に新鮮なお湯が浴槽にそそがれています。
しかし、豊富な湯量を確保できない入浴施設では循環ろ過装置を使っているところが多いです。
循環ろ過装置はろ過ポンプによって浴槽から浴槽水を吸い上げ、まず髪の毛や大きなゴミを取り除きます。
その後、熱交換器で温め塩素殺菌処理をしてを再び浴槽に戻されます。
出典:厚生労働省「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて」
つまり、循環ろ過装置を利用していても、安全に管理している場合には、レジオネラ症を発症することはありません。
しかしゴミを取り除く集毛器(ヘアキャッチャー)の毎日清掃・消毒やろ過機の週に1回以上逆洗浄、循環ろ過装置全体(配管も含む)の週に1回以上高濃度塩素消毒(5~10mg/l)など適切に管理されないとレジオネラ菌が増殖してしまします。
レジオネラ菌が増殖している浴槽水を再利用した打たせ湯、気泡風呂、ジェット風呂はエアロゾルが発生し,
レジオネラ感染の危険が高まります。
感染リスクの高い危険な場所を知る②露天風呂
露天風呂は、常にレジオネラ属菌の汚染の危険にさらされています。
そのため、露天風呂は常にお湯をいっぱいの状態にして、浴槽内のゴミを除去しなければいけません。
また、露天風呂のお湯と内湯が配管や、利用客によって混ざることもレジオネラ菌増殖の要因となってしまいます。
レジオネラ菌にさらされない安全な温泉とは
一番安全な温泉は以下の通りです。
- レジオネラ菌が死滅する60℃以上の源泉である
- レジオネラ菌が死滅する60℃以上の温度のまま浴槽に給湯している
- レジオネラ菌が生息しない酸性(pH5.0以下)の酸性泉
チェック方法としては
- 湯口から出ているお湯の温度チェック
- 温泉の成分チェック
- 「浴槽水検査結果書」のチェック
があります。
各都道府県の食品衛生協会などが水質検査をしているので「浴槽水検査結果書」があると安心ですね。
まとめ
適切な治療をしないと致死率60~70%と高いレジオネラ肺炎。
そんな恐ろしい感染症の危険は、意外と近くに潜んでいます。
温泉好きとしては、しっかりその危険をしり安全に温泉を楽しみたいところです。
レジオネラ菌の危険についてや安全な温泉の見分け方などお伝えしましたが、
全ての循環ろ過装置を利用している入浴施設が危険ということではありません。
元に銭湯では毎日1回浴槽水が交換されているため、
レジオネラ症を発症した人が今までいませんでした。
しかし、1カ月も浴槽水を交換しない入浴施設があったり、
しっかりとした知識がなく薬湯を提供し塩素消毒が効かなかったりと、
安全・衛生管理が整っていない施設があるため年々レジオネラ症患者は増え続けています。
自分のカラダを守るために、温泉を楽しむために安全面をチェックすることは大切です。
しかし、利用者の目には触れない場所に多くの危険があるため、特に自己免疫力が弱っている時の温泉には十分ご注意ください。